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小さな町の診療所である秦野医院。ここの院長を務める秦野悠馬(はたのゆうま)は今日も診療業務に追われ、一日の仕事を終えたところだった。
診療の補助を行うリファエルは看護師である。だからナース服でいいのだ。
コスプレなどではない。断言しておかなければならないのは誰かの趣味で少しだけスカートが短いだとか、今では廃れたナースキャップを付けさせているとか、そんなことはない。決して、ない。
「それでも感謝の気持ちってのは大事だろ? それに、ここにくるじいさん達の半分くらいはリファエル目当てだからな」
「そんなことありません。ユーマ様が体を治してくださるから来ているんですよ。ユーマ様あっての秦野医院です。先代よりも腕がいいって評判なんですから」
「はは、だといいけど。まあ、そんなのはいいや。腹減ったな。早めに仕事を切り上げて、飯にするか、飯に」
悠馬はそう言いながら机に広がっている筆記用具やら聴診器やらを脇にどけるとおもむろに立ち上がった。
「はい。では、着替えてきますね」
そう言って更衣室へと向かうリファエルの後ろ姿を見ながら、もう少し時間がかかるか、と一人ごちる。そして、あせることはないと思い再び椅子へと身体をあずけた。
ぎしりと軋む音は診察室に響く。もう一度、大きく伸びをしながら悠馬は天井を見上げていた。
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