託された刀

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 平八郎は剣術より勉学を好み、毎週決まった日に自分の部屋のある離れを使い子供たちに物書きを教えている。  輝定がこれからは小さな頃から武士も平民も関係なく物書きを覚えた方が良いとはじめたことの一つだ。  武家の娘や平八郎のように勉学を好む庶子で受け持ちを決めて子供たちに教えることになったのだ。  平八郎はこの時間がとても好きだ。  子供たちは皆、素直でいい子達ばかりだ。一生懸命、物書きを覚えようとしてくれる。  平八郎の書いた見本を元に筆を手にし、何度も繰り返し書く。  ここで一番大きな体の少年である文太は大きくてくっきりとした文字を書く。  その反面、体の一番小さいおフネは小さくてかわいらしい文字を書く。  それぞれ子供によって個性があって文字を見ているのも楽しいものだ。  いつも元気に駆けずり回っている子だが、まだ平仮名だが文字が書けるようになり学ぶことが楽しいと笑顔でそう言ってくれた。  今も真剣に自分の名前を漢字で書けるように練習中だ。 「喜助、惜しいな。『喜』という文字の横棒が一本足りない」 「え? あ、本当だ。この字、難しいよ。先生のように綺麗に書けないし」 「確かに画数が多い文字だけに書くのは難しいかもしれないな。だが、書くことが出来たら皆に自慢できるぞ? それに練習をすればもっと上手くかけるようになる」  と、そう笑って頭を撫でれば、俄然やる気が出てきたようでもう一度と書きはじめる。  喜助から離れて自分の机へと戻ろうとしていた時だ。  カァーと鴉の鳴き声の後に木から羽ばたく音が聞こえ、何故だか一瞬そちらに目をとられる。  普段から木に鳥はとまっているし、鴉だって別に珍しくはない。それなのに不気味で嫌な感じがする。  寒気を感じて腕を摩る。しかも怠い気がする。あとで診療所に行くとしよう。そうしたらこの気分の悪いのが治るかもしれない。
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