ベルギウス家の優雅な晩餐(リッツ)

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 その夜、実家に泊まることにしたリッツは寝付けずにいた。ずっと、晩餐の時のアラステアとフランクリンが気になっていた。  胸の中がモヤモヤする。そんな状態で廊下を歩いていると、ふと父の私室から明かりが漏れていた。  珍しい事だ。時刻は十一時を回っている。父は忙しくても食事と睡眠はしっかりと取っている。良い商談はベストなコンディションでなければできないという考えからだ。  そっと中を覗くと、一人ソファーに深く座ってブランデーを舐めるように飲み、家族の肖像画を前に置いている。そしてとても、寂しそうな顔をしていた。  肖像画には、家族の絵がある。多分、母が生きている最後の肖像画だ。五歳の自分と、兄と姉と父と。母の誕生日に毎年描いてもらっていたものだ。  父と母は政略結婚だったらしい。父とは五つも離れていて、可愛らしいお嬢様だった。没落した彼女の家を援助する代わりの婚姻だったらしい。  けれど父は母を愛していた。そして母も父を愛していた。母が亡くなった時、仕事人間だった父が一ヶ月も仕事を放棄したのだ。子供ながらに、苦しかった。     
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