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その後はずっと、父は仕事に打ち込んでいた。けれど大事な時には必ず側にいて、子供の話は真剣に聞いてくれたのだ。
「リッツだね」
「!」
「おいで、たまには話そう」
突然声をかけられて驚いたが、こうなっては逃げられない。そっと入って、ドアを閉めた。
父はなんだか弱い顔をして肖像画を置いた。そしてリッツにもグラスを出し、酒を注いだ。
「親父、さっきのあれはさ!」
「分かっている」
苦笑したアラステアは優しい顔をしている。それがとてもちぐはぐで、なんだか混乱させられる。
「兄貴を奮起させたいのかもしれないけど、追い詰めすぎだよ。あれじゃ兄貴が辛い」
「分かっている。けれど、今のままじゃあの子は家に潰されてしまう。私が厳しくしなければ、誰があれを育てられるんだい?」
そんな風に言われたら、言葉に迷ってしまう。アラステアの言う事は間違ってもいないのだ。
寂しそうに肖像画を見るアラステアは、ちょっと弱く見える。他人に見せることのない表情に不安がこみ上げてくる。何か、あったのだろうか。
「あの、さ」
「お前が継ぐと言うなら、さっさと任せてみるんだがね」
「継がないって言ったじゃないか」
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