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事件だけじゃない、事故だってある。ある日仕事だと言って出て行って、そのまま帰ってこない事だって十分にあるんだ。
「大丈夫ですよ、グリフィス様」
「ランバート」
真面目な顔でランバートは頷く。引き締まった空気を漂わせながらも、冷静でいようとしている。こいつだってこの年まで関係を続けている親友の事だ、本当は心配で仕方がないだろう。
「あいつはおちゃらけて見えて、頭はいいですし立ち回りがいいです。最悪を避けられるだけの危機回避は出来ます。例え今身動きが取れない状態だとしても、生きて機会を窺っているはずです」
「そりゃ! ……悪い、俺にはそんな器用な部分見えなくて……」
「世渡り上手なんですよ、あいつ。あれでも四大公爵家ベルギウス家の人間です。危機回避はできるはずです。武力ばかりが身を守る方法じゃないので」
「ありがとな」
気を使わせてしまって、申し訳ない。
でも本当に、そんな器用なあいつを知らないんだ。
グリフィスの中のリッツは明るくて屈託がなく、人懐っこくて下半身にだらしなくて、エロくて……。商魂は逞しいのだろうが、商人の顔は知らないままだ。
知った気になっていた。それを今、痛烈に感じている。
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