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その夜、やはり寝付けずに甲板に出ている。不思議な事に酒を飲む気にもならない。大抵嫌な事があると酒を飲んで流してしまえるのに。
不意に、隣りに人が座る。誰かなんて確認しなくても分かるから、大人しく受け入れた。
「飲みたい気分でもないんだ」
「ウルバス……悪いな、らしくなくて」
隣りに並んだウルバスはビン入りの酒を二人分持って来ていたが、苦笑して首を横に振り、脇に置いた。
「それだけ、大事な相手ってことでしょ? 仕方がないよ」
「……俺も、こんなに焦ったりするのは初めてなんだ。もどかしくてたまらん。後悔も、酷いんだ」
陸路で七日ほどがかかるジェームダル王都。リッツが消えてから、七日以上が経過している。時間が経ちすぎている。悪意のある奴が金を奪って連れ出して、殺していたら? 人が死ぬのに七日はかからない、数分あればいい。特にリッツみたいに武力を持たないなら尚のことだ。
ランバートは「そうはきっとなっていない」と言っていた。一緒に消えてフランクリンはリッツと関係は微妙だが、元々は仲のいい兄弟で気の優しい青年なのだという。その人物が関わっているなら、逆に殺すという選択はしていないだろうと。
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