甘ったるいこの世界で

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「なんの用だよ」 「特にねーけど…さっき思い出してコンビニでチョコ買ってきた」 「…来るなら電話の一本くらい入れろよ…」 「…ごめん…これ、バレンタインのチョコ…」 「…別にチョコなんていんねーし」 「…あー…やっぱ甘いもの好きじゃねーかな…じゃあこれ…捨てていいから…」 「違うっつーの」 「は…?」 「お前が俺に会うために来てくれた」 本当に… 「俺は…会いたいって思うだけだったから…」 お前が来てくれるだけで… 「今年は最高のバレンタインになった…サンキュー…」 「…俺も会いたくて…気がついたら…電車にいたって感じ…」 少し香る 金木犀の香り 「…ハッピーバレンタイン」 チョコの匂いと混じって 少し甘い 「お返し期待してるから…次は泰成が会いに来て…」 不意に 抱きしめたくなった 「…好きだよ。勇気」 「っ!?えと…えっと…」 「?」 「泰成の貴重なデレシーン…!」 「他にもう少しまともな感想ねーのかよ」 「いやー、つい…」 君は知らない 自分の香りを 雪みたいに冷たくて それでも穏やかな香りで やっぱりほんのり チョコの甘い匂いが混ざって 離れるのを拒みたくなる 「じゃあ…そろそろ帰るわ…」 「駅まで送る」 「どもです…」 出発の五分前に電車に乗って 金木犀の香りとお別れをする 「じゃあ、また今度な」 「おう…またホワイトデーで」 「…じゃあな」 金木犀の… 君の香りを少し鼻に残したまま 君に向かって背を向けた
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