俺たちのバレンタイン

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「ほんとに、怒ってるわけじゃないです」 テーブルにほかほかのおでんを盛り付けたお皿を並べながら、佐藤くんが苦笑した。 その瞳がいつもどおり優しくて、なんとなくホッとする。 今夜の佐藤くんは、包丁の使い方がものすごく怖かった。 大根を切っている、というよりは、切断している、という言葉がピッタリだった。 残業を終えて帰ってきたら大好きな人が夕飯を作ってくれている……なんて最高の光景だったのに、思わず声をかけるのをためらってしまうほどだった。 「理人さん、先にスーツ着替えますか?」 「いや、食べる。どうせ明日クリーニング出すつもりだし」 せっかく佐藤くんが作ってくれたおでんを、冷ましてしまいたくない。 ネクタイだけ手早く外して、ソファに立てかけてあった紙袋の上に投げ捨てた。 ***** 佐藤くんのおでんは、あたたかくて、ほくほくで、優しい味付けで、本当に美味しかった。 最近は残業になることが多くて、一緒に料理ができない。 俺はしがない冷やかし要員ではあるけど、それでも佐藤くんと一緒にキッチンに立つ時間が好きだった。 明日は金曜日だし、多少仕事が残っていても早めに上がろう。 確か鍋のスープがまだ残っていたから、また土鍋を一緒につつくのもいいな。 鍋なら材料を切るだけだし、俺もそこそこ役に立てる。 そんなことを考えながら食器を下げて戻ってくると、佐藤くんが四角いなにかを差し出していた。 「理人さん、これ」 「えっ?」 「バレンタインのプレゼントです」 「俺、に?」 「はい」 「え、ほんとに?」 「はい」 「開けても、いいか?」 「もちろん」 やばい……嬉しい。 今日がバレンタインデーだということは、もちろん知っていた。 でも、佐藤くんがなにも言わないから、なにもしないんだと思っていた。 男同士だし、興味ないのかも、と。 高鳴る鼓動を感じながら、バレンタインらしい真っ赤な包み紙をベリベリと剥ぎ取った。 佐藤くんは、お酒入りのチョコレートは避けてくれていると思う。 だって、いつも俺のことを見てくれている。 佐藤くんからのチョコを開けたら、俺も鞄の中から取ってこよう。 タイミングがなくてまだ渡せてない、俺からのチョ――あれ?
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