俺たちのバレンタイン

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「これ……なに?」 「だから、バレンタインのプレゼントです」 え。 でもこれ、どう見てもチョコレートじゃない。 だって、色が水色だ。 ものすごく爽やかな水色。 この間デートした日の空がこんな色だった。 もしかして、佐藤くんはあの空を意識して選んでくれたのか。 だとしたらものすごく嬉し……って、違う! 「なんだよこれ!?」 「気に入りませんか?」 「だ、だってこれ、どう見たって、ちん……」 続けようとした言葉は、佐藤くんの生ぬるい笑顔に飲み込まれた。 じっとりと絡みつくような視線に促されて、改めて手の中のそれを見つめる。 透明な箱に入ったそれは、スカイブルーの爽やかさを完全に無駄遣いしていた。 グロテスクな形が、テカテカと光っている。 素材はたぶん、ゴム……いや、樹脂? 黒い持ち手には、なぜかスイッチのようなものまであった。 そういう『オモチャ』があるのは俺も知っている。 でも、実物を目にするのは初めてだった。 思わずマジマジと見つめていると、佐藤くんが覗き込んできた。 「チョコレートが欲しかったんですか?」 「え? う、うん」 少なくとも今手に持っているこれよりは、チョコレートがほしいと思う。 「ふうん……理人さん、チョコ、ほしいんだ」 「佐藤くん……?」 「こんなにもらったのに?」 佐藤くんが、俺の白い紙袋を持ち上げた。 ネオ(うち)のロゴ入りのそれには、今日会社でもらったチョコが入っている。 鞄に入りきらなかった分を適当に詰めて持って帰ってきた。 「俺からのチョコなんていらないでしょ?」 「えっ……うわっ!」 佐藤くんが、いきなり紙袋を逆さまにした。 大小様々な箱や袋が、一気に降り落ちてくる。 乱雑な音を立てながら床に散らばったそれを、佐藤くんが呆れたように見下ろした。 「うわ……これ、何個あるの」 「そんなの別に数えてな……」 「数えきれないくらいもらったんだ」 「え……」 「俺がいるのに?」 ドサッ。 え。 シュルッ。 え。 ギュッ。 え。 ギュギュギューッ。 えっ……?
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