17人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
①
「ワニさんみたいね」
私は、娘の春香にそう言った。
テーブルに座った春香は、スプーンを手に取ったまま聞き返す。
「なんで春香がワニさんなの?」
彼女の目からは、涙が少しだけ零れている。
春香は寝覚めが悪く、泣きながら起きて、そのまま朝食をとることが珍しくなかった。
「ワニさんはね、獲物を食べるとき、泣きながら食べるのよ」
ワニは水中で獲物を捕らえる。その際に口から体内に侵入した水分を、彼らは目から排出するのだ。それで、まるで泣きながら食事をしているように見えるのだという。
私は職業柄、このような雑学に明るい。が、まだ五歳の春香には難しいかもしれない、とそういった説明はしないでおく。
「へ~。春香、ワニさんか~」
彼女は、スプーンを持たない左手で目をこすりながら言う。可愛らしい仕草だ。どうやら少し機嫌が直ってきたようで、ほっとする。
自分の朝食の用意を済ませ、私も春香の向かいに座る。
毎朝のように感じることではあったのだったが、大きめのテーブルは、二人で使うにはやはり広かった。
「新しい組はどう?」
私は尋ねる。
「なおちゃんとね、また一緒だから、楽しい~」
最初のコメントを投稿しよう!