1/2
前へ
/18ページ
次へ

「いえいえ。私の監督不行き届きで、本当に申し訳ございません……。康太君にも、きつく注意しておきましたので……。近く謝罪したいと、康太君のお母さんもおっしゃっておられました」 「ありがとうございます。でも、子供の喧嘩だから、しょうがないですよ」 「……本当にすみません」 「いいですって。ね、春香、もう大丈夫でしょ?」 「うん!」 春香は私の腕をつかんだまま、元気よく返事をした。 「それじゃあ、そろそろ帰りますね。行こうか、春香」 「はーい」  私は春香の手を引き、駐車場へと急いだ。  途中で春香が「あんなに怒ってた小春先生、初めて見た。康太君、可哀そうだった」と言った。  ちらと振り返ると先生がまだ頭を下げていた。    帰りの車中、私はもやもやとした思いを心の中に持て余していた。  後部座席を振り返ると、チャイルドシートの上で春香がウトウトとまどろんでいた。  私はきっと、怒るべきだったのだろう。しかし、怒りたくても、怒れなかった。先生だって、子供全員のことを見てはいられない。  それに、他の子をからかうことだって、子供ならば仕方ないし、それに対して怒った春香も、もちろん悪くない。  強いて言うならば、こういった状況になったのは夫が亡くなったせいだが、それこそ誰が悪いというわけでもない。  そんなことを考えていると、再び頭の中で声がした。 『時間が無いんだ。早く見つけてくれ』     
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加