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「ワニさんみたいね」  私は、娘の春香にそう言った。  テーブルに座った春香は、スプーンを手に取ったまま聞き返す。 「なんで春香がワニさんなの?」  彼女の目からは、涙が少しだけ零れている。  春香は寝覚めが悪く、泣きながら起きて、そのまま朝食をとることが珍しくなかった。 「ワニさんはね、獲物を食べるとき、泣きながら食べるのよ」  ワニは水中で獲物を捕らえる。その際に口から体内に侵入した水分を、彼らは目から排出するのだ。それで、まるで泣きながら食事をしているように見えるのだという。  私は職業柄、このような雑学に明るい。が、まだ五歳の春香には難しいかもしれない、とそういった説明はしないでおく。 「へ~。春香、ワニさんか~」  彼女は、スプーンを持たない左手で目をこすりながら言う。可愛らしい仕草だ。どうやら少し機嫌が直ってきたようで、ほっとする。  自分の朝食の用意を済ませ、私も春香の向かいに座る。 毎朝のように感じることではあったのだったが、大きめのテーブルは、二人で使うにはやはり広かった。 「新しい組はどう?」  私は尋ねる。 「なおちゃんとね、また一緒だから、楽しい~」     
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