チーズがとける夜には

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のんちゃん事、有坂望実(ありさか のぞみ)はこの男、橘祐介(たちばな ゆうすけ)の幼なじみで現在は同棲している彼女だ。何を隠そう、俺の初恋の人でもある。奴と彼女が付き合いだしたのは高校に入ってすぐの頃で、中学1年の時から彼女に恋をしていた俺はこれまでの人生の中で一番のショックを受け、一番の後悔をした。どうして卒業式の日に告白しなかったんだって。当時の俺は同じ高校へ進学が決まった事に舞い上がっていた。それにきっと俺の告白ならば受けてもらえるだろうと根拠のない自信も抱いていたのだ。何故って?だってモテたから。自分で言うのも何だけれど俺はかなりモテる。歩いていればだいたいの女の子が振り返るし、勉強もスポーツも大して努力しなくても人並み以上にできた。そのせいもあって、俺はいつもどこか物足りなさを感じていたりもして、一生懸命に何かへ取り込む事に憧れを抱き、時には不器用な奴等を羨ましいとまで思っていた。 そんな時に出会ったのが祐介とのんちゃんだった。とにかく不器用で誰かに助けてもらわないと何も出来ない祐介をいつも隣でフォローしているのんちゃんが輝いて見えた。特別可愛いとか、綺麗とかそんなんじゃなかったし、取り分け目立つ存在でもなかったけれど彼女の白くてまんまるとした顔がふにゃりと溶けるように笑う姿は周りにいる人達をいつも和ませていた。 なんとなくいいなーと思い始めて、いつの間にか目で追うようになって、その視線の先にはいつも祐介も居て、モテる割に奥手で自信のない俺は、のんちゃんと仲良くなりたいのに直接彼女に話し掛ける事が出来ず、いつも一緒にいる祐介に声を掛けた。最初はのんちゃんに近付きたいが為に声を掛けた祐介とは驚く程すぐに仲良くなった。こいつの何が凄いってとにかく何も出来ない所で、男の俺でさえあるはずのない母性本能をくすぐられた程だ。そして何より素直で笑顔が可愛いのだ。可愛いなんて言うと少し変に取られるかもしれないけれど他に言いようもないから仕方ない。垂れ目の奥二重の瞳がなくなるくらいにクシャッと笑うその姿は例えるならそうだ、もふもふとした大型犬だ。嬉しそうに舌を出して尻尾を振っている姿も似ている。祐介ものんちゃんも側に居ると和むし優しい気持ちになれる。二人してよく似ているなぁといつも思っていた。 のんちゃんが祐介に恋をしていたなんて夢にも思っていなかった。
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