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梅雨入り宣言が出された六月のある日。
ずっと雨が降らなかったのに、いざ降るとなると、誰もがそんな宣言を鬱陶しく感じるものだ。
ある者は天気予報士の自信ありげな顔を小憎らしく思い、ある者は傘の青いアイコンを恨めしく感じ、またある者は降水確率の数字から雨脚の程を頭に描き、玄関へと向かう。
鞄を開いて中に折りたたみ傘があることを確認したり、玄関の隅で斜めになってほんのり埃が被った傘を手に取ったり。
そうして、体重を乗せるようにして重い扉を開けると、垂れ込める鈍色の雲を仰く。
しかし、無情に落ちる無数の水滴を目にとめた途端、一様に吐息を漏らす。
――もう降ってきた、と。
まさに、雨に煙る朝。
人々が吐き出された歩道には、濃紺、濃墨、鼠色を初め、鮮紅、淡紅、萌黄、浅葱などのカラフルな傘の花が咲き乱れる。
その賑わいとは正反対に、人々は無言で行進する。そこへ、突然、少女の声が投げ込まれた。
「遅刻! ちこく! ち・こ・くー!」
声の主は、A公立高校一年生の玉響カンナ。
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