1.二人の転校生

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 梅雨入り宣言が出された六月のある日。  ずっと雨が降らなかったのに、いざ降るとなると、誰もがそんな宣言を(うつ)(とう)しく感じるものだ。  ある者は天気予報士の自信ありげな顔を()(にく)らしく思い、ある者は傘の青いアイコンを恨めしく感じ、またある者は降水確率の数字から雨脚の(ほど)を頭に描き、玄関へと向かう。  鞄を開いて中に折りたたみ傘があることを確認したり、玄関の隅で斜めになってほんのり(ほこり)が被った傘を手に取ったり。  そうして、体重を乗せるようにして重い扉を開けると、垂れ込める鈍色の雲を仰く。  しかし、無情に落ちる無数の水滴を目にとめた途端、一様に吐息を漏らす。  ――もう降ってきた、と。  まさに、雨に(けぶ)る朝。  人々が吐き出された歩道には、濃紺、濃墨、鼠色を初め、鮮紅、淡紅、(もえ)()(あさ)()などのカラフルな傘の花が咲き乱れる。  その賑わいとは正反対に、人々は無言で行進する。そこへ、突然、少女の声が投げ込まれた。 「遅刻! ちこく! ち・こ・くー!」  声の主は、A公立高校一年生の(たま)(ゆら)カンナ。     
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