1.二人の転校生

3/22
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
 茶髪のポニーテールを左右に揺らし、ショルダーバッグをリュックサックのように背負いながら、透明なビニール傘を差して通行人を掻き分ける。  身長150センチメートルの彼女は、小柄な体を活かして人混みを器用に抜ける術を習得済みだ。  だが、今日は彼らの頭上に傘という難敵がいるので、「すみませーん!」という活用範囲が広くて便利な言葉を併用しなければいけない。  時折、腕時計に目をやって、卓球部の朝練の開始時間が刻一刻と迫る恐怖と戦う彼女は、(かさ)(かし)げしてくれる人々に感謝しつつ、風の抵抗を抑えるため、途中から傘をすぼめて突き進む。 「あー、なんでよりによって――」  つい、漏れた心の声が中年のサラリーマンを振り向かせたとき、その睨み付ける顔に、違う意味で捉えられたと瞬時に判断し、「すみません」と謝罪する。  左カーブを曲がっていくと、学校の敷地を囲む柵が見えてきた。  もうすぐ、校門が視界に入る。いよいよ、走りにくい歩道から別れを告げられると思ったその時――、  傘も差さずに校門横に立っている長身の男子生徒が二人いることに気づいた。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!