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――ギャオルルルルルッ!
勇樹は、『走馬灯』から引き戻された。
ドラゴンの咆哮によって。
(まったく、いいところだったのに……)
彼は、血だまりの中に突っ伏していた。背中の傷は大きく、もう立ち上がることも叶わない。
勇樹を含む討伐隊五十名は、ある村を襲った五体のドラゴンの討伐を命じられた。
しかし、圧倒的な力を有するドラゴンが相手では、手練れの戦士五十人でも一体の相手が限界だ。そんなバケモノが五体もいるというのだから、敵うはずもない。
それでも、親兄弟や友達を助けるために彼らは立ち向かった。
その結果がこれだ。
数十分で討伐隊は、ほぼ全滅。
勇樹も、ドラゴンの強靭な爪で背を大きく裂かれ、無惨にも倒れた。
だから、彼は死の間際、由紀との最後のデートを思い出そうとしていた。
(……由紀は、最後になんて言ったんだっけ?)
まともに働かない頭でどうにか思い出そうとする。それを思い出せば、もう未練はないとさえ思っていた。
少しづつ、少しづつ、彼女の表情を思い描いていく。
不安を隠したように、弱々しく微笑みながらも瞳には情熱。
そして頬を僅かながら朱に染め、呟いていた。
その言葉を。
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