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札幌にもようやく春の知らせが届いた。雪どけの大地からは、薄緑色のフキノトウが力強く芽吹き始めている。
この春、H**大学では、北海道に由来のある動物の剥製・骨格標本を扱った博物館が併設される運びとなった。
建物は開拓使後期の西洋建築を再現した造りで、木製の壁は白を基調としており、窓枠や柱には穏やかな若緑が配色されている。館内には羆や蝦夷鹿を始め、数々の動物達が美しく、威厳のある姿で展示されていた。
骨格標本士の山内賢治は、応接室で副館長の佐田義和に最後の展示物となる剥製を届けに来ていた。
「ほう。これがお話しにあったお爺様の」
「ええ。そうです」
テーブルに置かれた硝子ケースの中から、つぶらな瞳の狸が愛嬌たっぷりに二人を見上げている。
「いや、驚きました。実に丁寧な仕事をされている。この表情、あどけない仕草。まるで今にも動き出しそうじゃあないか」
佐田は感嘆の声をあげて、ケースの左右から中を覗きこんだ。
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