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 あれこれと謎を空想しているうちに、それを知ることは正しい行いなのではないかと、そう思えてくる。賢治は持ち前の好奇心と、たった今作り上げた正義感に背を押され、クラスの友人と空き家に忍び込んだ探検ごっこさながらに離れへと足を向けた。  玄関の引き戸をそろりと開ける。氷点下の冷気が容赦(ようしゃ)無く吹き込み、寝巻き姿のままの賢治は身震いした。寒さに負けじと積もった雪の上へ一歩踏み出す。ぎゅっ、ぎゅっという雪鳴(ゆきな)りの音を繋ぎながら、僅かに明かりが漏れる離れの戸へ近づいた。  ()り硝子に姿が映らぬよう気を配り、そうっと耳を寄せてみる。すると、ガリ、ガリッ、と何やら小さな物音が断続的に聞こえてきて、賢治は首を傾げた。何の音だろうか。  かじかむ手の平にほうっと白い息を吐き擦り合わせてから、引き戸に指を掛けると、少しだけ力を込めた。ギッ、と低く短い軋みと共に細い隙間が生まれる。  小さく一呼吸すると零下(れいか)の空気に喉が()てついた。思わず込み上げた咳を(こら)えて中を覗き見る。
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