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オホーツク海沿岸に位置する極寒の地、網走。流氷観測や網走監獄で有名なこの都市の南西にある町の空港に、賢治は一人降り立った。
小学校の冬休みが始まってまもなく、父は仕事で急な出張を命じられた。父子家庭で札幌市内に頼る親戚もおらず、網走に住む祖父の家に一週間預けられることになったのだ。
賢治が祖父の家を訪ねるのはこの時が初めてだった。
「寒っ」
小柄な身体に不釣り合いな荷物を背負って空港の外に出た彼の頬を、雪混じりの北風がびゅうっと叩きつける。
ロビーで祖父の迎えを待っていたが、何となく落ち着かずに外へ出てしまったことを少し後悔した。生まれも育ちも同じ北国である札幌で寒さに慣れているはずが、氷点下を軽々と下回る気温と肌を切りつけるような風に、賢治は幼いながらにも北海道の広さを痛感した。
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