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「賢治か」
足踏みするように寒さに耐えていた彼の耳に、嗄れた、それでいて力強い老人の声が届き振り向いた。
「あ、爺ちゃん」
「こったらとこまでよく来たな。なして中で待ってなかった」
「なんとなく」
要領を得ない返事を気にすることもなく、祖父は深く頷くと賢治の肩を掴み幾度か揺すった。
「いやあ、おっきくなったな。俺が札幌に行ったのはいつだったべか。お前が四つか五つの頃だったか」
「幼稚園の時だったって父さんが」
「そうか」
賢治は朧げな記憶と数日前に父に見せてもらった祖父の写真を頭に浮かべてみた。当時より深く刻まれた顔の皺。すっかりと灰色になった頭髪。
ちらりと横目で視界に映した祖父の手は、浅黒くごつごつとしていてどこか老木に似た温かさを感じた。
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