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何かに引き寄せられるように、冷んやりとした戸の木枠に頬を押しつけて離れの中を覗き見る。
玄関はなく、コンクリート続きの一間は奥まで見渡せた。ほぼ中央に置かれた年季の入った石油ストーブ。そして隙間から見える限り部屋中に、それこそ足の踏み場もないほどに、様々な動物の剥製が群れを成していた。
驚くべきはその存在感で、これらが亡骸であるということをまったく忘れさせる代物である。例えば鹿の引き締まった四肢の筋肉の膨らみは、今にも勢いよく駆け出しそうな躍動に満ち溢れていた。
部屋の奥には、剥製に囲まれるようにして木製の机が見える。工具やナイフも散らばっており、作業台といったところだろうか。その横で、祖父が壁に向かい立っていた。
何をしているのだろう。
賢治が顔を傾けても手元は見えない。右腕を動かすたびに、ガリガリと何かを削り取る音が響いていた。
気づかれぬようにじっとしていた身体はすっかり冷え切り、指や耳は痛々しく真っ赤に染まっている。もう部屋に戻ろうか、そう思った時。
「賢治よ」
突然投げかけられた低い声に息を飲む。
「そんなとこに突っ立ってないで、はよ入れ」
賢治は身体が凍りついたように動くことが出来なかった。
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