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叱られることよりも、こっそりと覗き見ていた後ろめたさにこうべを垂れる。
「爺ちゃん、俺」
「ストーブの前行け。ぬくいから」
謝ろうと絞り出した掠れ声を遮るように、祖父は暖を勧めた。賢治は躊躇いもしたが、このまま母屋に逃げ帰る訳にもいかず、おずおずと離れの中へ足を踏み入れる。
ストーブの石油臭さに混じって鼻腔をつくのは、嗅ぎ慣れないものだった。血生臭い匂い。そして何かの薬品を連想させる匂いがするが、答えはわからない。ただ、生きた獣のものではないことは確かだった。
暖かな熱にほぐされていく身体とは対照的な、ぎくしゃくとした歩みと心。未だ背を向けたままの祖父の背を気にしながら、言われた通りストーブの近くで佇んだ。
しかし、説教や問答が始まることはなく、ただカチカチと秒針が刻まれて時が過ぎていく。作業の手を休める様子のない祖父に話しかけるのも気が引けた。
見てしまっても構わないだろうか。
賢治は側に行く合図のように、わざと靴底をズリッと鳴らしてから遠慮がちに近づき、そして祖父の向こうにあるものを見た。
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