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『いいか、賢治。爺ちゃん家の離れには絶対に入っちゃいかんぞ』 ****  昼間にあれほど吹き荒れた雪が嘘のように静まった穏やかな夜だった。  賢治は息を潜めて布団を抜け出し、母屋の窓から外を覗いた。彼の瞳には、隣接された離れに灯る橙色(だいだいいろ)の明かりが揺らいでいる。  祖父が、あそこにいるのだ。  鼓動が高鳴りドクンと跳ねると、父との約束が頭をよぎり、視線が右へ左へと彷徨った。  一体離れには何があるのか。祖父はそこで何をしているのだろうか。  賢治は冷えてきた足の裏をもう一方の足の甲に(こす)りながら、小さな窓にじっと目を凝らした。だが、時折黒い影がちらりと動くだけで、中の様子を伺うことは出来なかった。  『ねえ、爺ちゃん。離れで何してるのさ』 『別になんも。ほれ、とっとと食って宿題せえよ』  夕飯の芋粥(いもがゆ)(たら)の味噌汁を口に運びながら、それとなく話題にしてみたが、祖父は答えを濁すだけで教えてはくれなかった。父に口止めされているのかもしれない。子供には良くないことなのだろうか。それとも、誰にも知られてはいけない恐ろしい何かが隠されているのだろうか。
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