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雨の宿りは
まるで、リカちゃんハウスみたいだ。
向かい合わせに建てられた二棟のボロアパート。二階の角部屋の前に座り込んで、わたしはなにをするでもなく呆としていた。
正面の一室には五月だというのに、季節外れの簾が掛けられている。廊下へ放置された鉢植えには茶色くしおれた植物の残骸。その隣の部屋の前には、油の一斗缶が積まれて、そちこちにゴム長靴だの安全帯だのが散らばっている。
当たり前のことだけれど、そこには各々の生活があるんだよな。このちっぽけな部屋のひとつひとつに。リカちゃんハウスというより、シルバニアかな。それにしては小汚いようだけれど。
本日は雨模様。風がないから、色々な雨音が聴こえる。遠景には白糸の雨。ばらばらと軒を打つ雨に、雨樋を流れる小さな川音。時折、廊下のアスファルトを濡らす雨垂れ。雨音しか、聴こえない。
わたしはくるりと横を向いた。
お隣さんの洗濯機の上に、丸々と太った白猫が横になっている。しばらくここへ来ていない間に、隣人が飼い始めたのだろうか。首輪がないし、ここらの野良猫なのかもしれない。設えられたクッションの上へ、彼はどこかふてぶてしい顔付きで昼寝しているのだった。
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