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「もういい、わかった」大尉は手を上げて制した。「そろそろ終点だ」
車が止まった。
そこは舫寺の境内ではなく、那由多山麓に広がる森林地帯だった。太陽も暗く見えるほど高い樹木が密集した深い森の奥である。
生い茂った草木の陰からばらばらと武装兵たちが出てきて車両を囲んだ。
「よし、降りろ」 大尉は腋の下に吊った銃を抜いて阿僧祇を威嚇した。「これから我々に協力してもらう」
「協力とは?」
「恒河紗見聞録は、実に興味深い。詳しいことは施設に入ってから説明しよう」
「説明? 僕は何の説明を受ける? 贖罪のやり方についてか? 武器をちらつかせるなんて大袈裟だし、だいいち、こんな格好じゃ逃げられないよ」
阿僧祇は手錠を鳴らした。
大尉はそれには答えず、抑揚のない声で命令した。
「降りたらいっしょに来い」
阿僧祇は、那由多山の隅々まで知り尽くしている。このあたりの森の風景にも見覚えがあったが、あまりにも深い森なので滅多に立ち入る場所ではなく、しかも以前に訪れた時の記憶が曖昧だった。
こんな区域に何があるというのだろう。
いや、阿僧祇は知っていた。
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