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「見てくれは不気味だが、標本は当時のままだ。とても興味深いだろ?」大尉の声は冷たく乾いている。「2億5千万年前のままだ。標本ケースは如何なる方法をもってしても解除できなかった。絶対に破壊できないまゆに包まれているといてもおかしくない」
「エックス線探査は?」
「その<まゆ>はあらゆる放射線を跳ね返す。唯一、取り出せたのが添付されていたメッセージだった。ごていねいにもパンゲア語の訳文つきだった。まあ、それが恒河紗見聞録の大もとだろう。ところで、実はおたくが以前から見聞録の研究をしているのは知っていたよ。あと未来の奥さんも先史文明物理学を専攻しているそうだな。夫婦そろって共通するカテゴリーがあるのはいいことだ」
大尉はにやりと笑った。制服のポケットからキーレスカードを抜くと手錠にあてがった。手錠が外れた。
「これで容疑者扱いでなくなった?」
阿僧祇は手首のあたりをさすりながら言った。
「おたくを殺人で立件する方が楽だよ、本当はな」大尉は渋面を浮かべた。「しかし、そうも言ってられん事案がこれだ。見たまえ。これは、亡くなった銀毘沙鳳太さんの遺体状況だ。そして、<まゆ>の標本と見比べてほしいのだ」
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