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<んなとこで、テント張れってか? ザイルにぶら下がったまま昼寝するのは初めてじゃないけどよ、見晴らしが良すぎるよ、どうぞ>
のんびりした声が返ってくる。
「恒河紗見聞録、知ってるだろ? それかもしれないから、安全な場所を確保したらそこから動くな」
細かい土砂がパラパラと落ちてくる。
<またそれか。ありゃタダの迷信だよ。千年前の世迷言をまだ信じてるのか>
「文献によれば、那由多山にその予兆が出るんだよ。杭を刺したる所より岩が砕け、溶岩のごとき熱をもって流れ落ちるなり。白き恒河溢れてその紗は時を溶かすものなり・・・」
<わかったよ、わかった。これから庇のとこまで降下するよ。オイラのことを、そこから見守ってくれ、どうぞ>
「了解した。足場が崩れるかもしれないから、慎重にな」
千切れ雲のような風が吹き始めた。それと同時に岩肌の粉塵が渦を巻きながら昇っていった。
ザイルにぶら下がった鳳太が、独楽のように回転しているのが見えた。
岩と岩の裂け目から白い飛沫が噴出して、それが雨となって晴陽の頭上から降り注ぐ。
だしぬけに凍るような悲鳴が轟いた。
親友が地上に落下していった・・・
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