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それにしても、崖から落ちただけではあんな悲惨な遺体にはならんよ。鼻がそっくり抉られて向こう側まで見えた。こんな具合だ」監察官は両手の指先で丸い輪をつくってみせた。「それだけじゃない。腹部にもでかい穴が開いてた。薬を使って溶解したのか」
監察官は信じ難い状況を並べた。
「恒河紗現象が始まったんだ。ヤマの岩石が溶けだして、やがてとてつもない山崩れが起きますよ」
阿僧祇は保安局車両の後部座席に押し込められながらも食い下がった。
「山崩れのあとはどうなるんだ?」
監察官は興味なさそうに質問した。
「建物も植物も人間もしだいに溶けてなくなります」
「ほう、それで?」監察官は運転席の男に言った。「庁舎に行く前に舫寺へ回ってくれ。こちらの人とゆっくり話をするから」
<了解しました。記録しますか>
運転席の男は人間ではなく人工知能搭載のヒト型ロボットだった。
「しなくていいよ」
<承知しました。発車します>
車が動きだすと監察官は座り直して身体を前後左右にねじって、不審車両がいないかどうか警戒するそぶりをみせた。
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