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森の奥に、廃墟と化した天文台があることを。およそ二百年ほどの前の、今は時に忘れられた観測施設である。支柱が数本と崩れた外壁、原型をとどめない望遠鏡がそのまま残されているはずだった。
彼らはそこへ向かっていた。
生い茂る枝葉の陰に灰色に朽ちた天文台の丸屋根が見えた。ボロボロになった建物に手を加えたのか、修繕の痕跡があった。簡易パネルボードがはめ込まれた箇所もあり、真新しい窓も並んでいる。
そこが保安局の官舎でないことぐらいは察しがついた。
建物の中央に鉄製の扉があり、扉の前には二名の武装兵が銃を腰だめにして警戒していた。
一行が近づくと、武装兵は銃を下ろし大尉に敬礼すると、鉄扉の閂を解錠した。
洞のような入り口だった。
中は仄暗い照明がついているだけで、床は瓦礫類が散乱していた。
「百歩譲ってもここは取り調べる場所じゃないね。どちらかというと、拷問して自白させる施設みたいだ」
阿僧祇は背中に冷たい恐怖を感じていた。気を紛らわせるための冗談のつもりだったが、大尉は額面通りに捉えたようだ。
「確かに。ここには硝酸の大鍋があるからな。死体を始末するにはうってつけの場所だ」
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