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まさかの『アーモンド・チョコレート』だった。
おたがい社会人になって数年が経ち、潤沢とは言わないけれど『ここぞ』というタイミングでは、ぷち贅沢をできる程度の収入はあった。
そして。バレンタインはそんな『ここぞ』って時のはず。
実際オレは通販サイトでデメルのソリッドチョコレートをオーダーして、幸哉が帰って来たら一緒に食べよって用意してた。
前にも食べた事あって。めっちゃ美味いし、なんたって形がかわいんだ。
てゆーか去年は幸哉だってロイズの紙袋を手に帰ってきた。
それなのに。今年はどこにでもあるアーモンドチョコレート。
「10年だからさ。原点回帰ってことで」
ソファに放り投げたカバンはそのままで。
片手でネクタイをゆるめつつ、幸哉はそっけなく言った。
意図は、判るんだ。
10年前の今日。オレがまだ幸哉の事を「先輩」って呼んでいた頃。
オレ達がついにつきあう事になったのは、幸哉がくれたアーモンドチョコがきっかけだった。
雰囲気にのまれて初めて幸哉とキスをしたのはその前の年の夏。
半年が過ぎた頃には、この気持ちは友情とかじゃないって気づいてたけど……。
怖かった。
キスの回数が増えていっても、幸哉の肌の暖かさを感じても、それを「つきあう」って、ハッキリとした形にするのは、いけない事なんじゃないかって思えて。
幸哉が交際をほのめかすたび、話題を変えてた。
なのに……。10年前の今日。
「オレは一哉が好きだから、ちゃんと一哉とつきあいたい!」
と、コンビニで買ったアーモンドチョコを突きつけられてのどストレートな交際のお願いに、ほんの一瞬クラっとしちゃって。
「ぜったいずっと大切にするからオレのカレシになってくれ!」
と言いきる幸哉の上気して桜色に染まった頬は、めっちゃ色っぽくて。
「なってくれるよな?」
と有無を言わさぬ口調でたたまれた時には、オレは首を縦にふってた。
人生で最良の決断だった。
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