1.須く没収

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 胡桃沢杏果──僕とは小学生からの縁で、昔から天真爛漫かつ間の抜けた女子である。  ラッピングを施され、いかにも「バレンタインのチョコですのよ」とでも語り掛けてくるかのような風体の箱を手に、僕は黙考する。  昨今では友チョコなる物も流行っていると聞くが、この豪勢にラッピングされた箱はまさしく異性にあげる本命チョコだろう。  学年末テストが近いのにこうも浮かれるなんて、一体どういう了見か。  愛だの恋だの、僕にはわからない。  恐らく顔を歪めているであろう僕に、胡桃沢は下手な泣き落としを仕掛けてくる。 「ねぇ(ともえ)~。お願いだから見逃してよぉ。頼むから~。シャー芯ケースごとあげるから~」  ……びっくりだな。取り引きがせこい。  その程度の物で(なび)くと思われた事が心外だ。 「ダメなものはダメだ」  当然、にべもなく要求をはねのける。 「規則で決まっている以上、こういう物は学校外で渡すのが筋だ」 「ぬうう、学校外とか無理ぃ、ハード過ぎるぅ。しかも今日3年生って午前授業じゃん?昼休みが勝負だったのにぃ」  確かに3年生は今日、高校入試の関係で昼には一斉下校する。  渡すなら帰りがけの昼休みに、という計画を立てていたのかもしれない。  だからと言って、それを僕が見過ごすはずがない。 「残念だが、学校に持ってきてはいけない物を見つけた以上、僕にはそれを取り締まる義務がある」  没収品を段ボールへ入れようとすると、彼女は両手を擦り合わせてきた。 「あああ待って巴!小学校からの仲じゃんか!頼む!ここはどうか一つ穏便に!何卒!何卒激甘なご措置を!チョコだけに!チョコだけに!なんつって!」 「……」  
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