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僕は白い目を胡桃沢に向けた。
そして無言で、彼女のチョコを段ボールの中にスッと入れた。
「はうっ!?」
「何が激甘な措置だ。没収は没収だ」
激甘な措置だと?
そんな事、僕に出来るものか。
決して甘くないのだ、これは。
「うう……」
どんよりとした空気を纏い、うなだれる彼女。
記録用紙にチェックをしていると、彼女の方から「巴ぇぇ」というくぐもった声がする。
この様子だとケチだの鬼だのと言いがかりでもつけたいのだろうが、大概の恨み事には慣れているので怯むつもりもない。
しかし、彼女の言葉は恨み事などではなく──
「ねぇ巴。ソレいつ返してもらえる?」
という、やけにしおらしい質問だった。
「菓子類の返却は基本その日の放課後だ。学校で食べなければいい話だし、傷むと没収した側も処置に困るからな」
答えると、彼女は「放課後……放課後かぁ」と呟きながらなめくじのようにぬらぬらと立ち去っていった。
そんな彼女の後ろ姿を黙って見送る。
不憫ではあるが、自業自得だ。
それに根底の明るさ故に悲壮感を感じさせない彼女だ。すぐに立ち直るに違いない。
それから僕は、彼女の事は気にせず与えられた仕事をただ黙々とこなした。
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