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由伸
火がまっ赤に燃えている、炎を立たせて。
炎は、近づくものすべてを獲り込もうとしているような、触れるものすべてを焼き尽くそうとしているような、その炎の輝きに魅入られた眼は逸らすことができない。
炎の放つ熱波が顔に押し寄せ、ひりひりと痛く感じられる。火に向かって晒した額、鼻、目玉、眉毛、まつ毛、口、顎、耳はこのまま炙られつづけ、いずれは燃え上がり、すべてが灰に帰するのだろう――
炭が爆ぜる音がして由伸は我に返った。視界が穴の縁から首を引き抜いたときみたいに辺りの景色が一気にひろがった。
座敷の炉端には、お通しの小鉢と徳利と猪口が置かれ、木の枠で囲われた囲炉裏にはイワナが三匹、串に刺さって焼かれていた。そのイワナから煙が立ち昇っている。香ばしい匂いがしてきたので、由伸は口から涎を垂らした。
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