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それは亡主人の残した糞の山だった。さすがにこの時期では金蠅が集っているようすはなかったが、食欲旺盛な団子虫の群れが山裾に集結してご馳走をむさぼっていた。
糞の山の中腹から山頂にかけては、蛆と、蚯蚓を細く短くしたような、名も知れぬ生物がうごめいていた。
山頂に旗がひとつ―――亡主人が尻を拭くのに使った紙切れが風になびいていた。
庭の中央には石舞台のように置かれている伊予青石の天端がどどめ色に汚れていた。晴れた日には庭に鎮座した大岩は濃紺に渋く映え、雨に濡れれば照り輝き、渓流の水を岩肌に流し、得も言われぬ風情を醸しだしていた。
だがいまは青石岩の天端に残飯のカスがこびりつき、糞の山と同じく蛆と団子が群がって大宴会が執り行われていた。そばに樹齢をかさねて太く逞しい杉の大木もあるが幹にはまるで不吉な呪いのことばを刻んだかのように、縦に、横に、斜めにかきむしった傷痕がいたるところにあった。
以前とはあまりにもかけ離れた場景。この屋敷を訪れた者皆が心を和ませた和庭の風情はもうどこにも残ってはいなかった。
いまは餓鬼がうごめくがごとく荒れ地。荒んだ景色の見本市であった。
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