ユキと葛葉

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「ふふふ、さすが九尾の狐よ。本質を知りぬいているとみえる」 「さあ、そこは蛇の道も蛇でございますよ。それにしても、この前の光輝酒、お役にたったのでございましょう?」  先月葛葉のおさめる秩父の山まで遠出をして、家来の狐衆の助けをかりて光輝酒の源を教えてもらい、ユキとその娘小雪はありがたく持ち帰ったのだ。  それを小雪の思い人である人間の賢人に飲ませる算段であった。 「それがな、婿殿は光輝酒を拒んだ」 「おや、今どき、不老不死を願わない人間がおりますか? めずらいこと」 「ああ、あやつはそれなりに考えがあるのだろう。もともと雪女に救われた命だから、捨て鉢なのか、あるいは単に阿呆なのか。まあそれはそれとして、娘のほうが、あやつに拒まれて落胆してしまった、というわけよ」 「そうでしょうねえ」  と相槌をうちつつ葛葉は可笑しそうな顔つきだ。 「で、娘の小雪は、こっちも、しつこい所がある女子だから、意地もあったのだろう。なんとかという菓子に混ぜ入れ婿殿に食わせたらしい」 「おお、するとついに成就したのですね」 「いや、婿殿はそのとき、なんといったか、ノロウイルスとかの病をもっていたのよ。口にしたとたん、厠に直行し上から噴き上げるわ、下からも出すわ、で。おお、これは尾籠な話で悪いな。それで、娘がいうには、どのくらい体内に取り込められたかはわからない、ということだ。もし吸収したとしてもごく微量だろうと」 「そうでございますか」  葛葉は、まだユキは気になることがあるらしいと見当をつけて次の言葉を待った。
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