カップ麺に捧ぐ

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耐えられなくなった俺は、ヤカンを手に取った。まだ完全に沸騰していない中途半端な温度の湯を、カップ麺に注いだ。湯気が次々と上昇して拡がっては消えてゆく。使い終えたヤカンをガス台に放置し、テーブルに両手を突いた。頭を垂れて目を閉じた。絶叫が脳裏を過った。目を閉じたまま、右手でベルトを探った。右手が鋼鉄の凶器を探り当てた。コルト45ガバメント。1911A1。散々使い古された米軍流れの廃棄寸前の骨董品。しかし、その殺傷力は未だ輝きを失っていない。 コルトをテーブルの上に叩きつけた。 死体を蹴ったような不吉な音に、心臓を抉り取られたような思いがして、薄目を開けた。 コルトを再び手に取り、カップ麺の半分剥がされた蓋の上に、重し代わりに静かに置いた。 俺は待ち続ける。麺が熱いスープにふやけ、いつか出来上がるその時まで。俺は待ち続ける。 それは、永遠とも思えるような、長く静かな時だった。
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