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箸をつけようとしたその瞬間だった。俺は背中に激烈な痛みを感じ、前のめりになった。俺はそのまま、床にうつ伏せで倒れ込んだ。銃の火薬の香りが辺りに拡がっていた。何が起きたのか、一瞬にして俺はすべてを悟った。
背中の向こうから陰惨な声が聞こえる。
「薄汚い裏切り者め。組織を裏切った者は、皆必ず同じ運命を辿る。何も思い残すな。お前が作ったカップ麺は、俺が残さず全部食ってやるから」
薄暗い室内に、繰り返し、繰り返し、銃火が激しくいつまでも、永遠に思える時間を瞬いた。
俺は、カップ麺を食い損ねた事を悔やみながら、薄れ行く意識の中、最後の気力を振り絞った。震える指先で、カフスボタンに偽装した起爆スイッチを押した。
アパートの至るところに仕掛けられた爆薬が、遠隔操作によって一斉に起爆した。
俺がお湯を沸かし、俺が作ったカップ麺は、俺のモノだ。誰にも食わせはしない。如何なる犠牲を払おうと。それが、コンクリートの荒野に生きる俺達の、非情の掟だった。
了
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