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「ぬ、うぉっ!?」
思わず変な声をだしてしまったのは、部室が想像以上に広々とした空間だったためだ。教室と比べれば半分程度の広さだが、一般的な文化部の部室よりは明らかに広い。
床に目を引くものがある。一辺約二メートル、高さ約一〇センチの黒い色をした正方形の台。それが全部で九つ、ルービックキューブの一面を思わせて規則的に並んでいる。
一般的な部室とはかけ離れた、あまりにも異様な光景。
これは部室というよりはもはや、厳かな神殿の佇まいだわ……
「二軸ランニングマシンか。ここまで並ぶと壮観だな」
二〇三〇年代のVR eスポーツの必需品に視線を注いだまま、駈は呟くように言った。
「二軸ランニングマシンは正方形だから、こういう風に規則的に並べることができるの」
「そーゆーこったな」
「人間将棋プレーヤーの間では、この配置のしかたはナイン・スクエアって呼ばれてるの」
「ナイン・スクエア……」
「チェス盤のマス目のことを英語ではスクエアっていうんだけど、それにちなんだ呼び方」
「チェス盤のマス目……なるほど、確かに」
ぱっと見ルービックキューブの一面に見えた九台の並びはたしかに、九つのマス目という風にも感じられる。
「ここに立つ九人、いわゆるスタメンのことを、人間将棋の世界では九座って呼ぶのよ」
「ああ、九座ね。それくらいは流石にビギナーの俺でも知ってるよ」
「そう」
駈は部室をあらためて見わたす。
真っ先に目についたのは、備品の置いてある部室の隅だった。そちらへ二人で移動する。
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