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白い大きな空間の一番目立つ場所に、棺が置かれている。
棺のすぐ後ろに、故人が誰であるかを示すように遺影が置かれている。
このように設営されている斎場に、喪服を着た遺族が現れ、僧侶が現れ、僧侶の読経、法話が行われ、最後に喪主の挨拶が行われる。
そういったものが通夜の一連の流れであることを、一四歳の青迫駈はこの日初めて知ることになった。
法話のあと僧侶が去り、喪主の挨拶のあと遺族が去った。
今、この斎場には駈と祖父の二人しかいない。
二人きりの時間が過ぎる。
ただ、時だけが過ぎてゆく。
それまで親族を失った経験がなかった駈にとってこの時間は、どう解釈したらいいかわからない不思議な時間だった。
棺には顔の位置に小窓が設けられていた。その小窓に、祖父の顔が映っている。
寝ているようにしか思えない、安らかな死顔だった。とても死んでいるとは思えない。
「じーちゃん……」
ひとつ。ふたつ、三つ。小窓に雫が落ちた。
このとき初めて、駈は自分が泣いていることに気づく。
勝手に雫を湧き出させる目を、駈は強く閉じ、手で強く押さえつける。しかし涙は止まらなかった。それどころか、嗚咽までこみ上げてくる。
駈は崩れるように膝を折り、棺に覆いかぶさった。そこから先は、ただ泣き続けることしかできなくなった。
「じーちゃん……いつまで眠ってんだよ……じーちゃん……」
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