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火葬が終えられた翌日の午後、駈と両親は祖母に寄り添う意味で実家を訪れていた。
今は祖母を含めた四人全員が居間にいる。
祖父と一緒にVR eスポーツを観戦した思い出深いこの場所で、駈は一人、双手を枕に寝転がっていた。寝転がりながら、何が起こるわけでも、何があるわけでもない天井の一点を、ただ見つめ続ける。
駈が一人で感傷に浸っている一方、両親と祖母は膝を突きあわせて会話を続けていた。会話の内容はもちろん、祖父についての思い出話だ。
話していたと思ったら、すすり泣きが始まる。すすり泣きが止んだと思ったら、話が始まる。重すぎる空気に耐え切れなくなった駈は、立ち上がって部屋を出て行こうとする。
「駈」
呼ばれ、足を止める。祖母の声だった。
消え入るような声で祖母は「駈……」とくり返す。心に刺さるほど弱々しい声だった。その声に引かれ、駈は自分を呼んだ祖母に向きなおる。
「なに? ばーちゃん」
「駈……」
視線を交わらせた上で、祖母は口を開く。
「駈は、正月に来たときにじいちゃんとした約束を覚えとるか」
思いもしない問いだったため、駈はつい、「え……?」と呆けた声を漏らしてしまう。
「次に会ったときには正体を話すって、あの約束じゃよ」
「あ……うん。もちろん」
そう言って、小さく頷いてみせる。
「もちろん、覚えてるよ」
すると祖母は、そうか、というように緩慢に頷く。それから、「少しまっとれ」と言い残し、居間から出ていく。
間もなくして戻ってきた祖母は、一冊の本らしきものを手にしていた。厚さを見る限り、手帳のようだ。その手帳を、祖母は歩み寄りながら駈に手渡してくる。
「プロフェッショナル、主人公の流儀?」
表紙に書かれた文字を、考えなしに読み上げる。
これは、一体なんなの? そう口にする代わりに、問うような眼差しを投げる。
「じいちゃんが書いたものじゃ」
「じーちゃんが?」
髪染めをしていない白髪頭が、こくりと振られる。
「とりあえず、読んでみなさい」
改めて手帳を見やる。紙の表紙は茶色く変色し、所々が傷んでいた。そうとう古いものなのだろう。考古学的遺物にも似た歴史を感じさせるその表紙を、駈は一度つばを飲み下してから恐る恐るめくった。
露になった一ページ目は、表紙同様に茶色く変色していた。
汚らしいといえば汚らしいその薄茶を背景に、人の手で書かれた文字が羅列している。
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