五條大橋の牛若丸

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 TEAM五條大橋の軍装は、五條大橋というだけあって義経の源氏軍。  棋士兼王将であるウシワカとYOICHIが馬に乗る騎馬武者である一方、弁慶を始めとした残りの七名は全員が歩兵として大薙刀を手にしている。全員武器が違うジャンヌ軍と比較すると、いい意味で本物の軍団らしいというか、秩序を感じられるチームだ。  防具はウシワカとYOICHIが大鎧――脇の位置に小さな板を取り付けることで腕の可動範囲を高めた騎馬弓兵用の鎧――で、弁慶が僧服。残り全員は歩兵用の簡便な鎧である胴丸。 「ウシワカとYOICHIの所有アイテムに馬が含まれているのを確認した時点で、私はこの二人は馬を使ってくるだろうって読んでたんだけど……まあやっぱりそうなったわね」  敵軍に視線を注ぎながら、ゆめは冷然とした口調で言った。 「騎馬武者二人のうち、YOICHIは弓を背負っているから騎馬弓兵だということがわかる。三将配分における騎馬弓兵使用権の配分コストは2だから、この時点でYOICHIが金以上の将であることは特定された」 「前回のヴァイキング戦は敵味方全員が歩兵だったから、お互いが相手の三将配分をまるで掴めないまま試合が始まったけど……」  ゆめと同じく敵陣に顔を向けたまま、駈は言葉を発する。 「試合開始前の段階で、敵の三将配分がある程度割り出せるパターンてのもあるんだな」 「三将配分で選べる選択肢の中には、馬や戦象、弓というような目に見えるものと、スーツ・パワーアシストや毒のような目に見えないものの二種類がある。敵が目に見えるものを配分した場合、私たちはある程度なら敵の配分を推察することが可能になるってことね」 「今回の場合は、えっと……YOICHIが騎馬弓兵であることから金以上が確定で、義経……じゃなかったウシワカは騎兵であることから銀以上であることが確定したわけか」 「そういうこと」  敵軍を見つめる双眸を、ゆめはわずかに細める。 「三将のうちの残り一人だけがわからないという状況だけど……確率的に最有力なのは、見た感じ物部くんと同じくらいタッパがある、大薙刀をもった僧服の人ね」 「弁慶か」  ゆめは力をこめて頷く。 「そう思うのはやっぱり、でかいから?」 「それもあるけど一番の理由は、弁慶の装いが他の六人の歩兵とくらべて異質であること」 「装い……?」 「歩兵は七人のうち六人が胴丸という下級武士用の簡易鎧を着ているのに対し、弁慶だけが僧服を身にまとってる。この事実は、弁慶がチームにおけるなんらかの特別な役割をもった存在であることの裏がえしっていう風に考えることができる」  装備が違う人間は特別な役割を持っている。すんなりと理解できてしまう理屈だった。 「まあでも、それがじつは敵を騙すためのフェイクだった、なんていうパターンもこのスポーツにはあるんだけど……でも、裏の裏を考え始めるときりがなくなるから。今回はウシワカ、YOICHIに弁慶を加えた三人を徹底的に警戒する形でいこうと思う」 「了解」 「わかりました」  前列の最右翼で西洋版薙刀グレイブを肩にかけている宇野くんが、駈に続いて返事をする。 「そういえば、前回の初手は投槍ジェネテールをもつ霧下に陽動役として動いてもらうことだったけど、今回の初手はどうなるんだ?」 「今回は、初手に霧下くんは使わない」 「どうしてだ?」  今まさに話題にされている霧下がゆめに問う。 「前回霧下くんを初手に使ったのは、霧下くんが敵味方含めた一八人の中で最も高い機動力をもつプレーヤーだったから」  ゆめにそう返された瞬間、霧下の切れ長の双眸がはっと見開かれる。 「今回の敵にはウシワカとYOICHIという二人の騎兵がいる。馬の最高速度は人間のおよそ一・五倍。いくら霧下くんが特別な走力を持っているといっても、ウシワカを追いかけることはさすがに不可能」 「なるほどな。そういうことか」  霧下が苦みまじりの笑みを浮かべる。 「前回の敵は防御力が高い反面、機動力が低いヴァイキングだったからこちらから攻めることが可能だった。でも騎兵が二人いる今回の試合ではその構図はまったく逆のものになる」  霧下を見つめかえしていた目をゆめは今一度、敵軍へ向ける。 「今回は、YOICHIの弓をこちらがどこまで持ちこたえられるかが勝負の鍵になる」
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