熱波の序曲

2/3
前へ
/11ページ
次へ
しかし熱い。 全身から汗が吹き流れでて、息苦しい感覚に襲われた。 「君にできることは耐えるだけ、テレビに集中する、時計をじっと見る、ひたすら内省する、何も考えない。 どれを選択するかは自由。 時間を贅沢に過ごしなさい」 いつの間にか横にいた彼が呟いた。 「12分計や砂時計で時間を判断したまえ。 通常6~12分が目途だ。 熱さでもう限界と感じた時からが本番。 あと1分と言い聞かせて限界を超えたまえ。 とは言えあまり無理するのは体に悪いのでほどほどに」 少し矛盾している気もするが、やってみようと思った。 そう言えばテレビをゆっくり見るのは久しぶりだ。 チャンネルは選べない。 今日は通販番組が流れていた。 訳の分からないワイドショーよりはマシだ。 家庭のこと、仕事のことを目を閉じて考えた。 携帯も鳴らない。本もネットもSNSもない。 頭だけで考えるのは久しぶりではないか? これって今の社会では何気に凄い気がする。 過去のこと、これからのことをぼんやり考え始めた。 ・ ・ ・ ・ ・ 意外と耐えられそうだ。 もっと熱くても大丈夫な気がする。 ・ ・ ・ 最上段の人が出ていった。 そこに恐る恐る座ってみた。 まるで別世界。熱さがぜんぜん違う。 これが常連たちの世界か! 熱さで顔が痛くなる。 マネしてタオルで顔を覆ってみた。 帽子を被っている人もいる。 さすがいろいろ工夫をしている。 でも吹き出る汗が気持ちいい。 もっともっと熱く熱く!! 時計を見た。 あれ?まだ二分しか過ぎていない。 時の流れが遅く感じる。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加