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「あの古典の先生が怒ると……確かに想像がつく。とても怖いのだろうなきっと。君は怒られたことはあるのか?」
「今のところないけど……って、呑気な話する暇あったら家まで取りに行ったほうがいいと思うけど? 期限は今日までだし」
名前を呼んでくれないことに少々遺憾だったのか、少し不機嫌な感じで言った。
私は関係ないけど、というニュアンスにも聞こえた。
「まあ、そうだな。そうするしかないか」
才人は少し目を落として鞄を手に持った。
足取りが妙に重く感じる。
気のせいか――
「そうそう。早く行きなさい」
「ではいくとするか」
才人は立ち上がると、その場で急に立ち止まった。
危うく目的を忘れるところだった。
彼女の護衛が最優先なのだ。
勝手に持ち場を離れてしまってはいかん。
だが、少しぐらい、という悪魔な心も生まれてくる。
人間の心は、案外チンケなものだ。
「ちょっと急にどうしたのよ?」
雪羽は、青い瞳で才人を見上げる。
そんな風に見ないでくれ。決意が揺らいでしまうのではないか。
「いや……」
「いや?」
「やはり諦めよう。素直に怒られる選択を選ぶ」
才人は、椅子に再び座り始めた。
「どうしてそういう選択になるのよ……もう……」
雪羽は、気の毒な目で才人を見つめる。
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