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昔から、虫が好きだった。
昆虫の造形に心惹かれ、昆虫の生態に興味を持ち、採集に駆けずり回ったり図鑑を読み漁ったりした。
だけど、元々足の速かった僕はだんだんと陸上に興味を持ち始め、中学に入ってからは部活三昧の日々。
小さい頃は昆虫採集に駆け回っていたこの足も、今ではトラックを駆け、一本のバーをいかにより高く越えられるかに全力を注いでいた。
高校、陸上部。
2年の春。
一人、顧問に目に掛けられている少女がいる。
彼女は僕と同じ学年で、競技種目も同じ。
走り高跳び──ハイジャンの選手だった。
華奢で透明感はあるが、化粧っ気はまるでなく──運動部の女の子は大抵そうなのかもしれないが──、顔つきはどことなく男っぽい。
ストイックで負けん気が強く、あまり感情を表に出すこともないので、彼女と部活以外の会話をしたことがない。
ひらりとバーを背面で越える彼女は、“跳ぶ”というより“飛んで”いるように見えた。
顧問からは「あまり迫力がなくて危うい」と言われていた。
──確かに、翅のように軽く、危うさを感じる跳躍ではあった。
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