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「あらら、やっちゃったわね……。奇子、ちょっと借りてもいい?」
お母さんはボウルを指さす。
「いいけど……」
「ありがとう」
お母さんはボウルを手にすると、ヘラでボウルのふちをおさえながら、自分の鍋の中にラム酒を入れる。
「お母さんもたまには、こういう洒落たの使いたくなっちゃって」
お母さんはいたずらっ子みたいに笑う。
「ありがとね」
「どういたしまして」
ボウルに目を落とすと、ラム酒はだいぶ減ってるけど、それでもまだ多そう……。
「まぁいっか」
私は気にしないことにして、ロッシェ作りを再開させた。
海野さんのぶんを冷蔵庫にしまうと、一足遅れてお母さんも冷蔵庫にしまった。
「片付けは後にして、少し休みましょうか」
「うん、そうだね」
私とお母さんは、余ったミルクチョコレートを食べながら、お茶を啜ってテレビをつけた。
『今年は男性から女性に贈る、逆チョコが流行っているようです』
どうやらニュース番組らしく、若い女性アナウンサーが街頭インタビューを始めようとしているところだった。
「逆チョコですって。奇子ももらえるといいわね」
のんびりした口調で話すお母さんに、私は意を決して聞くことにした。
「ねぇお母さん、どうして恋人について、根掘り葉掘り聞かないの?」
お母さんはキョトンとした後に、声を上げて笑った。
「なぁに、聞いて欲しいの?」
「ううん、そんなんじゃないけど……。でも友達は恋人いるの親に知られたら、色々聞かれて大変だったって……」
「それが答えよ」
お母さんはお茶を啜る。
「え?」
「奇子は聞かれたら嫌なんでしょ? 私もね、若い時にお父さんのこと聞かれるのが嫌だったもの」
お母さんは目を細めながら言った。
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