板挟みチョコ

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修也が、学校に戻ったのは、2月16日だった。もちろん、心の傷は治っていないが、学校から逃げ続けることこそ傷が治らない原因になるので、悩んだ末に、学校に行った。 いつの間にかクラスには、「バレンタインに振られた男」と知られてしまったらしく、唯一の居場所であった陽樹や、如何にも優しそうな人にどれだけ励まされようとも、または心無いアホやマヌケに馬鹿にされようが、そのことに触れられるのは、修也にとって傷となった。特に、美鈴が何故か学校に来なくなったことが。 しかし、無視できないからかい言葉があった。 朝の会が終わった後の、束の間の休み時間のことだ。修也と陽樹が、悲しい記憶を忘れるためなのか二人でたわいもない話をしていたら、「親友に好きな女を奪われた挙句泣いて学校を休んだ男」とクラスの不良くさい男子からバカにされたかのように叫ばれた。言われたとたんに、修也は、これまでにないほど目に血を走らせながら、詳細を迫った。その話を不良くさい男子から聞くと修也は、まるで隣にいた陽樹にナイフで刺されたような、熱を帯びた痛みが心の中を駆け巡り、精神から血が溢れ出した。 2月14日。学校の放課後、陽樹は、家ではなく学校の体育館裏にいた。こんな日に体育館裏にいる理由は決まっている。しばらくして、修也が好きであった人――そう、美鈴が来た。手には、愛情を込めて作ったのだろうか、手作りチョコが入った箱があった。 2月のいつか。陽樹は、美鈴から、ラブレターをもらっていたのだ。内容は、「バレンタインデーに体育館裏で待ってて」というものだった。 緊張しているからか、上手く言葉を表せられていない美鈴が何かを話す前に、陽樹が先制して言う。 「本当にドッキリでもイタズラでもなかったんだな……今朝、修也の手紙、見ただろ」 普段なら絶対にしないような、まさしく日当たりの悪いこの場所にぴったりな、あまりにも冷たい口調の言い方だった。 「そうだけど……」 逆説の後を聞く前に、陽樹があらかじめ決めておいた言葉を続ける。 「結論から言う。おまえは、あいつを裏切った。あいつの想いを踏みにじって、自分の想いを優先したあんたなんかとは付き合えない」 1分にも満たないやりとりであった。美鈴は、「待って」とも言えずに、10秒足らずで泣き崩れてしまった。しかし、陽樹は、その様子を見ようともせずに帰って行った。
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