死闘

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 見ると、防護服が、ポケットを中心に爛れたようにボロボロになっていた。  戦闘でハイになって全然気づかなかった。  ポケット。  あれか。  ポケットにはガムが入っていた。  潮解――結晶が空気中の水分を吸収して溶けること――に似たようなことが……起こった?  ガムが気体化したチョコレートを吸着し、その高濃度の液体チョコレートが防護服を破壊した?  理由なんて考えている場合じゃない。ここは早く逃げなければ。と思ったが、呆然としている間にカカオとの距離は縮まっていた。  咄嗟に撃つ。  一発、二発、三発。  だが、弾は心の乱れを鏡のように映す。  動揺のなかで撃った銃弾は、カカオのヘタを掠め、はるか彼方に吸い込まれる。  迫るカカオ。  引き金を引く。だが、人差し指にはむなしい感触。弾切れ。  リロードしようと左手でポケットをまさぐると、なにか小さいものが跳ねる澄んだ音。溶け落ちた防護服のポケットから、弾が零れ落ちたのだ。  拾う暇はない。  足を狙って飛び跳ねるカカオ。咄嗟に体を捻り、倒れるようにして回し蹴り。右脚でしたたかに打たれたカカオが天井に激突。オレンジの肉塊が頭上より滴る。  次いで飛びかかるカカオ、これは頭を狙っている。手の甲で殴打、床に叩きつけ、踵で潰す。  途切れなくカカオは襲いかかる。視野に入ったのは三匹。最も近い一匹を掴み、噛む隙を与えず、もう一匹に投げつける。二匹同時処理。だが、その間に残りの一匹が間合いを詰めていた。  勢いよく跳ね、首筋に迫るカカオ。  ……間に合わないっ!  刹那、筒音。  カカオが突き飛ばされ、一筋の煙が上がる。  それを合図に轟音、銃弾が雹のように降り注ぎ、カカオの群れが一瞬にして朱色の水溜まりと化した。 「遅かったな」 「遅かったな、じゃないですよ。ほんと暴走しないでください」  やっと援護が到着。命拾いした……。
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