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道沿いに並んで規則正しく流れるランプの白い光は、どこかで見た何かに似ている。窓にもたれてそれを見ながら、僕は大きく息を吐いた。
「やりたいの?」
「ん?」
「奥さんに悪いじゃん。それでもセックスしたい?」
英司は、横目で僕を睨んだ。
「君は、なんで来た」
「…」
「昔の男にまた捨てられるのが怖いから、逃げてきたんだろ?」
この人はいつも的外れなことを言う。僕は苛立って、
「そうじゃない」
と声を上げた。
「じゃあ、なんだ」
「…」
「俺の気持ちを利用するくせに、非難するのはよせ」
非難したつもりはなかった。気づくと、雨粒が細い糸を描いて次々と窓に落ちかかっていた。車は海を渡り終える。
二年前の夏に行った店は、今日も混んでいた。あの時の店員はいなかったが、英司はやはり「先生」と呼ばれて、奥の席に通された。
車の中の会話はなかったことにして、僕は聞かれるままに、仕事とランニングの話をした。ふと思い出して、
「車でかけてる音楽、いつも同じ人のだよね」
と聞いた。
「そうだな。君を乗せる時は同じかな」
「多分聞いても分からないけど、なんていう人の歌?」
「人というか、バンドなんだけどね」
英司は珍しく笑顔で、バンドの名前を口にした。僕は、その名前を憶えておかなくちゃ、と思う。
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