51人が本棚に入れています
本棚に追加
「二階の窓を開けてた?」
「うん、あ、ちゃんと閉めたよ」
「何も見えないでしょう」
「なんか、海が光って見える」
英司は、横から僕の顔を覗き込んだ。
「何で泣いた?俺が嫌なこと言ったから?」
「…泣いてないけど」
「泣いた顔だよ」
頭に置かれた彼の手を掴んで、手のひらにキスした。さっき使ったシャンプーの匂いがして、湿っている。
彼は、その手をもう一度僕の頭に置いて、
「会うのは、これで最後にする。でも、いつでも電話してくれていいから」
と言った。
「…最後って。もう別れてるのに」
英司は、僕が首に掛けているタオルを取り、両手を使って美容院でやるように、僕の髪を拭き始めた。
「昔の男が戻ってきた時は、君から会いに来ると思ったから」
例の沈んだ声だった。
「待ってた。未練というか、ね。今日、ここに連れてきたから、これでもう」
タオルを丁寧に畳んで脇に置いてから、英司は僕の肩を静かに抱き寄せた。僕は彼の胸に顔を押し当てた。
「君の言う通り、セックスしたいと思ってたけど、やっぱりやめよう」
「していいよ」
「言うと思った。でも、俺はしない方がいいな」
「…そうなの?それなら、何でここまで来た」
英司はなだめるように、僕の腕を撫でた。
最初のコメントを投稿しよう!