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2、オニユリ:嫌悪
「童貞かよ」
「……そこまで言うか。普通」
「だってそうじゃん! 駅で助けてくれた美女に恋するってすっごいチョロい童貞でしょ」
半笑いでマシンガンのように言葉を放つ彼女は、僕の唯一の女友達。
まぁ。僕からしたら彼女の言葉なんて、BB弾ぐらいの威力だ。
「理人の言う黒魔女さんって人がどんな人か知らないけど、こんなストーカー顔のクソ童貞に好かれるなんてかわいそうに……」
訂正。やっぱり、実弾以外の何物でもない。
「まぁ、“恋愛”なんて陽キャ専用の言葉だ。なんて言ってたアンタが立派に恋しちゃってるもんね…まぁ、頑張れば?」
「おぉ……あ、ありがとう」
「はいはい(笑) そういや最近、写真撮ってる?」
「写真同好会の部員なんだから当たり前だろう。お前はサークル活動しなさすぎだ。お前は……」
「はいはい。見せてよ」
僕は南にカメラを渡した。
南は自分のカメラを扱ってるかのように遠慮なく写真を見始めた。
「相変わらず、花しか撮ってないね……せっかく上手いんだから風景とか人とかとればいいのに」
「嫌だね。風景なら……いいかもしれないけど人はない。植物なら自分が何を伝えたいか見てる側がわかりやすいだろ? 馬鹿でも調べりゃわかるんだから」
「相変わらずね……」
植物には花言葉がある。人や風景を対象にしないのは「この人は何を表現したいのかがわからない」なんてバカみたいな評価を聞かなくて済むんだ。そういう意味では植物が好きだ。
「……チューリップなんて撮っちゃって。ガチじゃない。改めてだけど理人が恋するなんてびっくりだわ」
「……そうだな」
「ま、いいけど。そういや堺先生の話なんだけどさ! なんかすごい美女と話してたらしくて、堺先生を狙ってる由加里がさ……」
そうか。僕は恋をしているのか。
写真同好会のサークル活動という名の無駄話の時間を過ごし、僕は南とはわかれた。
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